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阿蘇山の特徴的な地形が阿蘇地方の集中豪雨に与えた影響に関して(第一報)

2012年8月2日更新

概要

 2012年7月11日から14日にかけて、九州北部で大雨が多発し、各地で洪水や土砂による災害をもたらしました。 特に,11日深夜から12日早朝にかけて阿蘇地方で極端に強い雨が発生し,AMeDAS 阿蘇乙姫では11日22時から9時までの11時間で約500mmの降雨がありました. 下の図2は,気象庁全国合成レーダーGPVを阿蘇周辺についてアニメーションで示したものです. 阿蘇の西から東へ雨雲が移動し,阿蘇山の西の高まり(以降,阿蘇外輪山と呼びます)ぶつかることで降雨が強化され,それがさらに東へ移動することでカルデラの北側(阿蘇谷)で多量の降雨をもたらしたことがわかります. また,中央火口丘にぶつかった降雨域は中央火口丘の高まりを避けるように,阿蘇谷の方へ移動している様子もわかります. そこで,本研究室では,現実の地形を用いた数値実験に加え,阿蘇外輪山を取り除いた地形を用いた数値実験,中央火口丘を取り除いた地形を用いた数値実験をそれぞれ行ない,それぞれの地形が持つ影響について調べました. その結果,阿蘇外輪山および中央火口丘の地形効果によって積乱雲が強化され,阿蘇谷における降水量が増加した可能性があることを明らかにしました.

 本研究では既に20回以上のシミュレーションを行ない,結果については十分に検討しておりますが,速報性を重視して行なった研究成果のため,今後の研究の進展により,一部の内容や解釈が変わる可能性があることをご了承下さい.変更があり次第,随時更新いたします.

20120712
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図2 気象庁全国合成レーダーGPVによるレーダー反射強度(2012年7月11日23時~12日9時, JST)

シミュレーションの設定(専門家向けの内容)

 シミュレーションにはRAMS(Regional Atmospheric Modeling System)Ver.6.0を用いました. 初期値・境界値には気象庁MSM(MesoScale Model)の客観解析値を用い,3時間毎のデータによってナッジングを行なっています. 計算領域は図3の通りで,ネスティング手法を用いて水平格子間隔の異なる複数の領域を計算しました. 水平格子間隔は,外側のDomain 1が2km,内側のDomain 2が500mです. いずれのDomainにおいても積雲対流のパラメタリゼーションは用いず,積雲対流を直接計算しています.

 ここで,境界値およびナッジングについて,2012年7月11日18時(UTC)の客観解析値は用いずに計算を行なっています. このデータを用いると,九州中北部における線状降雨帯の停滞が再現されず(すぐに南下してしまう),阿蘇での豪雨が再現されませんでした. また,Domain 2 について図2よりも狭い領域(中心は同じで40グリッド(20km)狭い領域)で計算を行なったところ,降雨域は北側にずれ,阿蘇谷に集中した降雨域は現われませんでした. 一方,JRA-25を用いた実験も行なったのですが,こちらでは線状の降雨帯が全く再現できませんでした. 本研究における計算の設定は以上のような試行錯誤により決定しました.

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シミュレーションに用いた地形

 本研究ではシミュレーションに用いる地形に変更を加えることで,その地形が持つ影響,効果を調べました. 具体的には,現実の地形を用いた数値実験(以降ではCTLと呼びます)に加え,阿蘇外輪山を取り除いた地形を用いた数値実験(NAS),中央火口丘を取り除いた地形を用いた数値実験(NCN)をそれぞれ行ないました. 図4にそれぞれの地形を示します.

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結果

 図5(a)に気象庁の解析雨量(観測値)による7月12日0時から9時の積算降水量を(b)にCTLにおける同時刻の積算降水量を示します.図5(a),(b)から阿蘇山の阿蘇谷を中心とした降雨域の再現は非常に良く出来ていることがわかります.しかしながら,降水量についてはCTLの方が少なく,観測された降水量の半分程度(解析雨量では500mm以上ですが,CTLでは300mm程度)でした.ただし,気象モデルでの降雨再現の難しさを考えると,今回の結果は完璧とは言えませんが,降雨域の再現性が非常に高く,解析に足るものと考えています.

 図6(a)にCTLにおける7月12日0時から9時の積算降水量を,(b)にNASにおける同時刻の積算降水量を示します.CTLとNASを比較すると,CTLでは北側の外輪山(図中の楕円部)で強い降雨域が見られるものの,外輪山をとったNASではそれが見られず,強い降雨域は東へ移動しています.ただし,阿蘇谷の降水量に大きな変化はありませんでした.細かく見るために,図7 (a)にCTLにおける7月12日3時10分から3時20分までの10分間降水量を,(b)にNASにおける同時刻の10分間降水量を示します.これらを比較すると,CTLの阿蘇谷における降水量がNASより4mm程度多いことがわかります.これは,CTLでは阿蘇外輪山により積乱雲が励起されるものの,NASではそれがないことが原因であると考えられます.

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 図8(a)にCTLにおける7月12日0時から9時の積算降水量を,(b)にNCNにおける同時刻の積算降水量を示します.CTLとNCNを比較すると,阿蘇谷の降水量が40~50mm程度CTLの方が大きいことがわかります.細かく見るために,図9 (a)にCTLにおける7月12日4時10分から4時20分までの10分間降水量を,(b)にNCNにおける同時刻の10分間降水量を示します.これらを比較すると,CTLでは強い降雨域の中心がカルデラの西部に存在するのに対し,NCNでは中央火口丘がないため,強い降雨域の中心がカルデラの中央へ変化していることがわかります.降水量の差は阿蘇谷で10mm程度です.これはCTLでは中央火口丘の高まりによって積乱雲が励起されていたものの,NCNではそれがなかったことが原因と考えています.

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 以上から,今回発生した豪雨には阿蘇外輪山や中央火口丘が積乱雲を強化させ,阿蘇谷における降水量を増やしたものと考えられます.特に,中央火口丘はその西側で降雨を生じさせることにより,阿蘇谷で降雨が集中した一因である可能性があります.ただし,今回の実験で得られた影響は10分降水量で4~10mm,9時間の積算降水量で40~50mmとそれほど大きくなく,豪雨の直接的な原因としては前線や湿潤大気の移流など,より大きなスケールの影響が大きいものと思われます.

連絡先

研究に関することは, 松山 までお願いします.

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Tel: 0426-77-2603 (ダイヤルイン: 松山) ext. 3867
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